先日は中国大使館から電話がかかった。
2010年以降、旅券にかかわる事項以外、わたくしは当館とはなんの繋がりも持たなくなってきた。理由はおわかりでしょう。
要件:
あなたの出入国の自由を制限すること。
理由:
あなた名義の中国銀行Cardが国際金融犯罪に使われ、共犯者は2月16日に上海浦東国際空港にて逮捕された。
調査:
我々(大使館)は上海市公安局虹口分局からの要請に応じ、調査が終わるまであなたの出入国の自由に対する制限を解除しない。
調査の仕方:
上海市公安局虹口分局に出頭し、Card番号の照合を行う。犯罪に関わった確証があれば、我々(大使館)はあなたの日本在留を剥奪する。
話を聴くと、まずは何が何だかさっぱりわからない気がした。そして電光石火の如く、これは悪意的な密告によるものかと思ったのだ。
わたくしの答え:
第一に挙げられた逮捕者の名は知らないし、わたくしはアーティストなので国際金融犯罪にかかわるなんてとんでもない。中国銀行には昔から自分名義の口座はあったものの、長らく使っていないゆえ番号さえ覚えていない。よって出頭しろなどもわたくしにとってはとんでもないことだと。
「出頭しないというなら」
相手は間を入れて言った。
「我々は上海市公安局虹口分局の要請であなたに連絡したわけだから、出頭しないというなら公安と直に話してください」
と言いながら「ご親切に」電話を当の公安局に繋いでくれた。
そこから話は乱暴になって行く。
「犯罪にかかわる物証が出たにもかかわらず、出頭を断るなら捕まえに行くまでだ」
その言葉を一瞬、不審に思った。
だが怒りに任せて、わたくしは「人権侵害に抗議する」と言った。このような抗議はかの国では何の意味もなさないことを知っていながら。
しかし思いのほか意味があった。
「ならばあんたのCard番号を申せ! (逮捕者が持っていたやつと)照合してやるから」
電話の向こうからそう言われた。
「先ほど大使館の方にも申し上げましたが、かなり昔に作った口座なので番号など覚えていません。どうしてもというなら、上海の家族に確認してみますよ」
「えっ⁈ Cardは上海にあるというのか⁈」
語調は苛立ってきたようだ。
あとでわかったことだが、
「Cardが上海にある」
という事実は相手にとっては絶望的だったのだ。
「2分だけやる。早く確認せえ」
語調はもう、どうでも良いという感じになってきた。
「幾ら何でも2分は足りない。少なくとも1時間はください」
終身反対派のわたくしだから、こう答えて電話を切った。
あとのことはもうお分かりでしょうね。
それでもバカ真面目なわたくしゆえ、火急上海にいる妻に電話した。
こっちが大真面目だったのに、妻は大笑いして言った。
「これは最近よく使われた詐欺の手段らしい。無視してくださいな」
一瞬、頭の中が真っ白!
ほっとした思いと、世も末だという思いとが混じり合い、その日、わたくしは久しぶりにひどい頭痛を患った。
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言論統制、人権侵害、病毒蔓延、人身売買、乃至戦争、
人の世には公権力による不正が横行している。それでも足りぬかと思われるほど、若年層発の詐欺がはびこりつつある。少なくとも、自称「大使館員」の女性は声を聴くと、若くて礼儀正しく有能である様子が伝わってくる。ならどうして⁈ まともな仕事に就くことが嫌なの⁈ それともわたくしのような人間を騙してかっこいいとでも⁈
理由は五万とあるだろう。知らない人の口座番号を手に入れて何をするかは、わたくしにはわからない。しかし人を踏み躙ってまで己に利する、そのような汚いまねは果たしてきみたちの人生に幸をもたらすことができるのだろうか? 今はネットに隠れて人を痛めたり、その財産を掠め取ったりすることができても、一時は法律の盲点をくくり抜けたとしても、いつかは天罰がくだされる。前途には、煉獄が待ち構えているぞ!
足を洗いまともな仕事につき、道は艱苦に満ちても堂々たる人間として生きていける。今なら、まだ間に合うかもしれない。
毎日NHKのテレビでキャススターが「私は騙され無い」の実際の手口例にそっくりですね。
「詐欺です。すぐ電話を切り警察に連絡して下さい。」実害が無くて良かったですね、