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長相思物語

 古典小説『紅楼夢(こうろうむ)』の冒頭に、このような物語がある。

 天界の俊英・神瑛侍者(しんえいじしゃ)はあまの川を行き来する うち、絳珠草(こうじゅそう)という一本の草に出会した。風にそよぐその可愛らしさに心を奪われ、日ごとに甘露(かんろ)をかかげてきては絳珠草に注いだ。歳月が流れ、絳珠草は甘露の恵みを受け続 けたおかげで遂に草木の形を脱し美しき乙女の姿に化身した。しかし未だ甘露を注がれた恩に報いる術もなく、胸中に募る思いはいや 増すばかり。


 ちょうど神瑛侍者が浮世に降り幻の縁(えにし)を閲(けみ)せんとするにあたって、絳珠草は、 ---甘露の恩には報いようとも報い切れぬ。わたくしも下界に生まれ変わり、一生に流せるだけの涙を彼に還せばよろしいわ。と心に決めた。


 こうして神瑛侍者は賈宝玉(かほうぎょく)に転生し、絳珠草はヒロインの林黛玉(りんたいぎょく)に。運命の二人は 悲しい恋に終わるとも知らず、互いを恋慕し止まないのであった。


 荘魯迅の「長相思(ちょうそうし)」は、この物語からインスパイ アされ作られた曲である。


謹んでこの「長相思」を捧げます~~~

---誰かに真心で愛され、そしてその誰かを深く愛して止まないあなたに。




親愛なる皆様


 新年あけましておめでとうございます!


 右の拙文は、ただいま編集中のミュージク・ビデオ「長相思」の冒頭に置かれたナレーションになります。「長相思」は、二〇一八年にわたく しが最も力を入れた一曲なのです。


 覚えていらっしゃいますか? 去る十月五日に行われたコンサートのタイトルも「長相思」でした。その日のス テージでは、荘魯迅とラスベガスから飛んできてくれたゲスト・董苓(とう れい)さんとの二重唱で聴いていただきました。いつものように、三百数十 席を埋めたのは日中の方々。上海同郷会の主催でしたので、どちらかとい うと中国の人が大半を占めました。中には、上海から応援に駆けつけてく れた友人も多数。ところがその人たちにとって、わたくしが三十年間にわ たり日本で創作し蓄積してきたオリジナルよりも、わたくしが八十年代に上海で歌った曲の方が遥かに懐かしくてうれしかったようです。


 ---それも人情の常と言うべきか...... と、わたくしは諦め半分で、日本の皆様が支持してくださる荘魯迅オリ ジナルと中国の人たちが喜ぶ「懐メロ」をおよそ半々に分けてプログラム を組んできました。それでどうにか、ご来場の方々の満足度のバランスを 取ったつもりでいたのです。


しかしその日の様子が違った!

「長相思」を歌い終わった時、

「今夜はもう帰りたくない!」

「この歌をもっと聴きたい!」

 という中国語の喝采が場内のあちらこちらから湧き揚がったのです。あとで寄せられた上海同郷会の友人によるコメントにも、「長相思感人肺腑。謝謝!(長相思は人々を肺腑にまで深く感動させる。ありがとうございます)」と記されていました。


 「長相思」は、言うまでもなくわたくしが日本で作った荘魯迅オリジナルです。でもそれは日本の皆様のみではなく、多くの中国人の心をもとらえたようです。これぞ、わたくしがひたすら求めてきた歌の、国境や民族を超えた感動力なのです。



 皆様、「長相思」ミュージック・ビデオは二月十七日の新春ライブで上映される予定です。ぜひお越しになりご覧いただいた上、貴重なご感想とご意見をお聴かせくださるようよろしくお願い申し上げます。


 詳しい案内は本紙のお知らせをご参照ください。お目にかかれることを楽しみに待ち望んでおります。


二〇一九年一月三日

荘魯迅 於東京

「我愛長江・荘魯迅友の会」会報第68号より




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