遠い電波の彼方から――『Country Roads』とわたくしの半世紀
- 荘魯迅

- 1 日前
- 読了時間: 5分

若い日の記憶というものは、不思議なところに棲んでいる。
忘れたつもりでいても、ある旋律が流れた瞬間、幾十年もの歳月を飛び越えて、風の匂いまで伴いながら蘇ってくることがある。
わたくしにとって、John Denver の “Take Me Home, Country Roads” は、まさにそのような一曲である。
まだ中国にいた若い頃、外国の音楽を自由に聴くことのできる時代ではなかった。夜更け、遠い世界から短波ラジオに乗って届いてくる音楽に耳を澄ませた。
電波は決して安定してはいない。
雑音が入り、旋律は途切れ、歌声は遠ざかったり近づいたりする。
それでも、その向こう側には、自分の知らない広い世界が確かに存在していた。
その電波の彼方から聞こえてきた一つの歌が、
“Take me home, country roads.”
であった。
英語を十分に理解していたわけではない。それでも、この歌が「帰る」ということを歌っていることだけは、なぜか胸に伝わった。
山があり、道があり、故郷がある。
そして、人はどれほど遠くへ行こうとも、心のどこかに「帰りたい場所」を抱えて生きている。
当時のわたくしには、その素朴な感情こそが、かえって眩しかったのかもしれない。
やがてわたくし自身も故郷を離れ、日本で暮らすようになった。
それからほぼ四十年。
人生には、思い描いた通りになったこともあれば、まるで反対の方向へ流れていったこともある。出会いがあり、別れがあり、喜びがあり、悔恨もある。
だが、不思議なことに、若い日に耳にした歌だけは、歳月の底に沈むことなく残っていた。
ある時から、北京の音楽仲間たちは、わたくしを半ば冗談めかして「莊丹佛」と呼ぶようになった。
John Denver の「John(莊)Denver(丹佛)」である。
冗談とはいえ、わたくしには少しうれしい呼び名でもあった。
あの頃、遠い電波の向こうから聞こえてきた歌手の名が、思いがけず自分の名前の傍らに置かれたのである。
そして今年、もう一度この歌を歌ってみようと思った。
ただし、若い頃と同じように歌うことなど、もちろんできない。
声も変わった。
人生も変わった。
そして何より、「故郷」という言葉の重さが変わった。
中国語題の 「老家的青山路」 は、今回わたくしが付けたものではない。
若い日に、初めて短波ラジオからこの歌を聴いた時、すでにその名で紹介されていたのである。
わたくしは、歌そのものとともに、この訳名にも深く心を動かされた。
「老家」という言葉の親しさ、「青山路」という言葉の遥かなる広がり。
まだ見ぬ遠い土地の歌でありながら、なぜかそこには、自分自身の帰るべき場所まで重なって見えた。
それから半世紀近くを経た今も、わたくしの中では “Take Me Home, Country Roads” と 「老家的青山路」は、ほとんど一つの記憶として残っている。
今回、まず WeChat に新しくレコーディングしたこの歌を出してみた。
ありがたいことに、思いがけないほど多くの反応をいただいた。
同世代の人々からは、昔の記憶を呼び覚まされたという声が届き、もっと若い世代からも、この歌への思いを寄せていただいた。
一つの歌が、人それぞれの「故郷」を呼び起こしている。
それが何よりうれしかった。
そこで、海外で YouTube を見てくださっている方々にも届けてみようと思った。
ちょうどこの数日、長く放置してきたYouTubeチャンネルの整理にも取り組んでいた。
バナーを作り直し、
Music · Poetry · Words
という言葉を掲げた。
オリジナル音楽の再生リストを整え、漢詩の動画にも入口を作った。
歌だけでもない。
詩だけでもない。
歴史だけでもない。
これまでばらばらに存在していたものを、どうにか一つの「莊魯迅」という入口から眺められるようになった気がする。
その新しく整えた場所に、最初に送り出す歌の一つが “Take Me Home, Country Roads” になったことには、どこか象徴的なものを感じている。
YouTube用には、WeChatで使った縦長の画像を横長に作り直した。
淡い空色の中に、
Take Me HomeCountry Roads
そして、
老家的青山路
さらに小さく、
A Tribute to John Denver
と入れた。
完成した画像を見た時、わたくしは少し不思議な気持ちになった。
若い頃、雑音混じりの短波ラジオから遠い国の歌を聴いていた少年が、半世紀近い歳月を経て、その歌を自分の声で世界へ送り返している。
人生というものは、時に長い円を描く。
出発した時には、その円がどこへ戻ってくるのか、誰にも分からない。
公開後、固定コメントには三つの言葉でこう書いた。
日本語で。
この歌は、若い頃から長く心の中に残ってきた一曲です。皆さんにとっての「故郷の歌」があれば、ぜひ教えてください。
中国語で。
這首歌陪伴我走過了很長的歲月。如果你也有一首屬於自己的「故鄉之歌」,歡迎告訴我。
そして英語で。
This song has stayed in my heart since I was young. If you have a song that feels like “home” to you, I’d love to hear about it.
考えてみれば、わたくし自身の人生も、ずっと「home」という言葉を探す旅だったのかもしれない。
上海。
日本。
音楽。
漢詩。
そして、遠い昔に短波ラジオから流れてきた一つの歌。
故郷とは、地図の上にある場所だけではない。
人が長い歳月を生き抜いたあと、なお心の中に残っているもの。
時には、それこそが故郷なのだろう。
だから今、もう一度歌う。
Take me home, country roads.
帰る場所がどこであれ。
その道が、まだ心の中に残っているかぎり。




感動的な文章と歌ですね🎤👍👍